運動機能麻痺者に対して、外部から適切な電気刺激を加えることによって機能を再建する、「機能的電気刺激」と呼ばれる生体工学的手法がある。本研究の目的は、神経筋骨格系に関する生体情報を人工神経回路を用いて解析し、対象とする運動を機能的電気刺激で実現するための刺激データ生成法を確立することにある。本年度は実験系の整備や予備的な実験を中心に行った。 まず、現有の関節角度測定装置、接触圧力測定装置と本年度に導入されたテレメータ(生体情報遠隔伝送装置)を、信号計測用インタフェースを介して、計測や制御を行うパーソナルコンピュータに接続し、実験系を構築した。これにより、多種類の生体情報を総合的に解析することが可能となった。特に、テレメータの導入により、各種運動中の生体情報を無拘束で計測できるようになったので、日常的な動作により近い条件下での実験の遂行が期待できる。 次に、人工神経回路のプログラムを作成し、前途の実験系と共に予備的な実験を行った。実験では、健常者の手関節の2自由度運動(掌背屈・橈尺屈運動)中の筋活動・関節角度等を計測し、その対応関係を人工神経回路によって検討した。この実験により、整備した実験系の動作を確認した。また、人工神経回路の各種パラメータを決定した。すなわち、人工神経回路の入力層・中間層・出力層のニューロン数や学習定数といった、構造や機能を決定するパラメータを学習すべき課題に関して最適化し、本研究で用いる人工神経回路を完成させた。 これらの成果を次年度の測定・解析実験に反映させることで、生体制御のための人工神経回路網による筋活動の解析が適切に遂行されるものと思われる。
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