咀嚼筋を支配する三叉神経運動ニューロンの活動性は、橋・延髄の脳幹網様体に分布する前運動ニューロンにより調節されている。このように三叉神経運動ニューロンを直接支配する前運動ニューロンは、大脳皮質の咀嚼運動関連領野からグルタミン酸作働性の興奮性入力を受けていると考えられている。一方、サルの前頭葉皮質に分布する咀嚼運動関連領野には、一次運動野口腔顔面領域(一次顎運動野)、補足運動野口腔顔面領域(二次顎運動野)、一次顎運動野の吻外側方に位置する中心前回外側領域(咀嚼野主部)、および前頭葉弁蓋部皮質の内側面領域(咀嚼野深部)がある。本研究の目的は、これらの咀嚼運動関連領野から橋・延髄網様体、さらに高次運動中枢として知られる大脳基底核(その主要入力部である線条体)への入力様式を解析し、咀嚼運動調節系の詳細を明らかにすることである。 平成9年度は、大脳皮質咀嚼運動関連領野のうち、一次および二次顎運動野、すなわち一次運動野と補足運動野の口腔顔面領域から橋・延髄網様体と線条体への投射線維の分布を解析した。平成10年度は、二つの異なる咀嚼野、すなわち咀嚼野主部および咀嚼野深部から橋・延髄網様体と線条体への投射様式を調べ、一次および二次顎運動野からの投射様式と比較した。実験にはニホンザルを用い、咀嚼野主部と咀嚼野深部、さらに一次および二次顎運動野を皮質内微小刺激法により電気生理学的に同定した。次に、それぞれの領域に異なる順行性トレーサーであるWGA-HRPやBDAを微量注入し、二重軸索標識法によりラベルされた神経線維の橋・延髄網様体と線条体における分布を観察した。その結果、咀嚼野主部から線条体への投射線維は、主として被殻の尾側1/2レベルの腹内側部に局在し、その分布領域は二次顎運動野からの投射線維の分布領域と一致することが明らかになった。また、咀嚼野主部から橋・延髄網様体への投射線維は、一次および二次顎運動野からの投射線維の分布領域と一致するように、小細胞性の網様体外側部、いわゆる外側被蓋野を中心に分布するが、とくに三叉神経上領域などの三叉神経運動核周囲に局在する傾向があることがわかった。咀嚼野深部から橋・延髄網様体および線条体への投射様式についても現在検討中である。
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