咀嚼は、ヒトを含めた哺乳動物が、エネルギー源、栄養素を外界の食物から摂取するための食行動の第1段階でる。従来、この食物の物理的性状(硬さ、テクスチャーなど)に応じて咬合力がいかに調節されているかに関する報告は、多々見られたが、化学的性状を検知する味覚がいかに咀嚼運動に影響を及ぼしているかの報告は、ほとんどされて来なかった。本研究では、食物に含まれる味物質がどのように咀嚼行動を含めた摂食行動を変化させるのかを調べることを目的とした。本年度は、特に食物の嗜好性に着眼し、様々な種類の味物質を混入させた餌で長期間飼育されたラットが、成長後どのように食餌に対する嗜好性を変化させるのかを検討した。 実験には、雄性ウィスター系ラットを用いた。離乳直後のラットを4群にわけ、3.5%食塩、17.5%ショ糖、6%酒石酸、0.2%塩酸キニ-ネのいずれかひとつをラット用粉末飼料(MF;オリエンタル酵母社製)に混入したものを1ケ月間与え続けた。1ケ月後、各群の動物に、これら4種類の餌と味物質が混入されていないコントロール餌を同時に与え、摂食行動に嗜好性が優先するのか、摂食経験が優先するかを検討した。 その結果、ショ糖飼育群では、1ケ月もショ糖混入餌をもっともよく摂取したが、他の3群のラットは、2日以内に、ショ糖混入餌もしくは、コントロール餌をもっともよく摂取るするようになった。これらのことから、少なくとも実験を行った味物質濃度において、摂食行動には、食餌経験よりもむしろ、食餌そのものの味に対する嗜好性がより優先して関与することが示唆された。
|