咀嚼は、ヒトを含めた哺乳動物が、エネルギー源、栄養素を外界の食物から摂取するための食行動の第一段階として必須の動作である。近年我々は、味覚が咀嚼のリズム形成や咬合力形成に多大な影響を与えることを動物実験により明らかにしてきた。 助成金交付1年目には、動物がその成長課程で特定の味を付けた飼料を与えられると、成長後もその慣れ親しんできた(familiarな)味つき飼料を嗜好することを、行動学的実験により明らかにした。 2年目には、食物嗜好が得られるには、成長過程のどの時期に、どの程度の期間、対象となる食物を摂取しなければならないかを検討した。その結果、離乳後、より長い期間ハムスター用飼料摂食を経験させた群ほど、成長後に対象飼料を好んで摂食する割合が高くなった。また、経験する時期では、3週目までに対象飼料摂食を経験させた群の成長後に当該飼料を好んで摂食する割合が高かった。 最終年度である3年目には、味以外の要素である飼料の硬度に対しても動物が嗜好性を獲得するのか否か、また、飼料硬度に対しても味覚刺激と同様に嫌悪条件づけを獲得することができるのかを、行動学的に調べた。その結果、動物は、成分が同じ飼料であってもその硬度を指標に飼料選択を行うこと、また、飼料硬度に対しても嫌悪条件づけを獲得することができることを明らかにした。これらの結果は、動物が食物選択を行う際にその味のみならず、硬度などの食品テクスチャーに関する情報も充分に活用していることを示唆している。
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