村上(1997b)では、日本語母語話者と非母語話者(上級日本語学習者)の接触場面での課題達成実験(「道順説明」)の文字化談話資料を元に、以下3点を明らかにした。1.接触場面では、日本語母語話者同士の場面(母語場面)に比べてコミュニケーション効率が低いこと。2.その効率の低さの一因には、コミュニケーション・トラブルに陥って出発点付近に引き返す行動の影響が考えられること。3.ミュニケーション・トラブルの原因として、説明者と被説明者の間に、次の3種のような認知フレームの対立が見られること。(1)空間の参照フレームの対立(絶対的フレームvs.相対的フレーム)。(2)図形の認知フレームの対立(図的フレームvs.地的フレーム)。(3)方向参照地点の認知フレームの対立(精詳的フレームvs.概要的フレーム)。 また、村上(1997c)では、同上の談話資料を元に、特に空間の参照フレームに焦点を絞り、その表現型式および説明者・被説明者間での折衝と確定過程の談話分析を進めた。結果として、絶対的フレームに3種、相対的フレームに2種の表現形式を明らかにした。また、折衝と確定過程では次の3点を指摘した。(1)被母語話者が説明者になる接触場面での「赤の道順」説明の場合、母語場面の場合よりも、空間の参照フレームの対立が多く見られた。ただし、どちらの場合も、確定された参照フレームは、ほぼ説明者のそれに準拠されていた。(2)説明者・被説明者の役割を交代した「緑の道順」説明では、「赤の道順」で生じた対立はほぼ解消された反面、新たな対立組も生じ、その確定過程には母語場面と接触場面で異なる傾向が見られた。(3)「緑の道順」で対立が見られなかった組では、説明者個人が言語/文化的に習得した参照フレームよりも、「赤の道順」で相手との相互作用を経て確定されたそれが優先される傾向が窺えた。
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