本年度は、既に収録した日本語母語話者対非母語話者(上級日本語学習者)ペアの接触場面2の録音資料について、文字化作業およびデータベース化を完了させた。また、非母語話者(初級日本語学習者)対日本語母語話者ペアの接触場面3について談話資料の収録を行い、その文字化作業およびデータベース化を8割まで完了した。 他方、鹿嶋(1999)では、母語場面(日本語母語話者同士ペア)および非母語話者(上級日本語学習者)対日本語母語話者ペアの接触場面1の「道順説明」を談話資料として、そこで用いられている空間の参照フレーム(cf.Baayen&Danziger eds.1994)に焦点を絞り、その参照フレームが伝達される表現形式のタイプについて談話分析を行った。分析の結果、両者で用いられている表現形式のタイプは母語場面・接触場面ともに思いの外、限られていることが明らかになった。すなわち、「地図上のランドマーク」、「東西南北」、「左右上下」、「時計の文字盤」の4タイプである。特に、「左右上下」には、ルート・マップ型視点の場合と、サーヴェイ・マップ型視点の場合、という2つのタイプの異なりが認められた。これらの表現形式を、3種の空間の参照フレームの異なりとしてまとめると、まず、相対的参照フレームにはルート・マップ型視点の「左右上下」とサーヴェイ・マップ型視点の「左右上下」、および「時計の文字盤」が用いられていた。内在的参照フレームには、「地図上のランドマーク」、および上を北と定めた「東西南北」が用いられていた。これに対して、絶対的参照フレームは、この「道順説明」という課題達成実験においては、該当例を見つけることができなかった。
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