1.概要 対話における「待遇レベル管理」の実態およびコミュニケーション上の機能を実証的に明らかにするために、2者間の対面自由会話資料を収集、データベース化し、次の3点を中心に質的・量的に分析した。(1)対話相手に応じて設定された基本的待遇レベル(2)会話参加者ごとの各待遇レベルの出現頻度(3)対話中に観察された待遇レベル・シフト 2.結果 (1)基本的待遇レベルの設定プロセス:初対面会話においては、相手に関する情報が皆無の状態で会話が開始された直後は、仮の基本的待遇レベルとして丁寧体で会話を開始した話者が圧倒的に多い。相互の属性(特に学年)が明らかになるとともに、基本的待遇レベルの選択・設定が開始されるプロセスが観察された。異学年群の下学年話者については、基本的待遇レベルが女性群では全員が丁寧体であったのに対し、男性群では普通体を選択した話者が30%を占め、男女差が確認された。 (2)基本的待遇レベルが丁寧体であっても、談話中の普通体への待遇レベル・シフト(相手の発話の繰り返しなども含む)あるいは、待遇レベル表示の対象とならない普通体でなされる独話や引用形式を活用するというような様々なディスコースストラテジーを用いて、話者は下位であるとか疎の人間関係であることに対する「わきまえ」を示しつつ、丁寧体のもつ堅苦しさを緩和したり相手に対する心的距離を調節したりしながら、つまり「働きかけ」ながら、ダイナミックにコミュニケーションを遂行している様子が明らかになった。 (3)接触場面群の各待遇レベルの頻度は、日本語母語話者、非母語話者ともに「です・ます体の言いきり」で文を終了する頻度が母語話者群と比して高い。母語話者にとってのフォリナートークの調整の1形態が実証的に証明された。
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