本研究着手2年目の平成10年度は、日本語の文章・談話における「段」という言語単位の構造と機能を解明するために、方法論の異なる2種類の資料の調査と分析を行った。(1)先行研究の理論的検討に基づく論説文の文章型の分析、(2)元の文章の聴解による要約文調査である。収集した資料をデータベース化し、部分的な分析を行った。 (1) 日本語の文章論における先行研究を踏まえて、6種類の「文章型」と「段」という言語単位の妥当性を検討した。改行一字下げ表示による「段落」とは異なる、内容上のまとまりとして他と相対的に区分される「段」は、単位の認定基準が問題になる。文章・談話の全体構造の規模や内容の複雑さに基づく大小様々の話題のまとまりを示す段の重層構造の直観的判定は危険であり、特に、談話資料の「話段」の場合は、文章の「文段」に比べ、個々の資料の単位認定に恣意性が大きく伴う。また、日本語の論説文には、文章の主題を「おわり」に表す「尾括型」が最も多く、複数の主題が文章中に散在する「分括型」があるということも確認された。 (2) ボランティアの「要約筆記」者と人文系大学生各2集団を対象とした論説文の朗読テープの聴解による要約文調査の結果を、同一文章の読解による日本人大学生のものと比較検討したところ、原文の表現の残存率に異なる傾向が認められた。前者の要約文には、原文の主題や重要な内容を示す中心文が残存しない例も少なくないが、これが伝達方法によるものか、被調査者の要約力の差異によるものなのかは、今後の検討課題となっている。 さらに、論説文の段落区分と要約文の調査結果に基づいて、文章型の言語形態的な指標を分析し、段の話題を統括する「中心文」の形態と機能を分析した。また、研究発表や授業、テレビの対談・相談・ニュース番組、日常談話等を文字化資料として、発話や話段の区分をしたが、話題展開のパターンを分析するための有効な方法を模索検討中である。
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