本研究の最終年度の平成11年度には、日本語の文章・談話における「段」という言語単位の構造と機能について、先行研究の理論的検討と、読解および聴解による要約文調査の結果を通して、以下のような知見が得られた。 (1)日本語の最大の言語単位である「文章」と「談話」の直接成分は、話題の統括機能を有する「段」である。 (2)「段」は、原則として、提題表現と叙述表現で話題を表す「中心文」とそれに統括される連文から構成される。「段」は、改行の有無にかかわらず、内容上の一まとまりとして他と相対的に区分されるが、文章・談話の目的や内容等に応じた、大小様々な話題のまとまりによる重層構造をなしている。 (3)日本語の文章には、「頭括型」「中括型」「両括型」「尾括型」「分括型」「潜括型」という6種の「文章型」があるが、これは、文章全体を統括する「主題文」をともなう「中心段」の出現位置と頻度によって分類される。 (4)日本語の談話の「話段」は、単一文脈の文章の「文段」に比べて、複合文脈の発話連鎖に複雑な統括機能があり、「文章型」とは異なる「談話型」もある。 (5)日本語の文章には、終了部に中心段がくる「尾括型」が多く、また、複数の主題が散在する「分括型」もある。 (6)日本人大学生と聴覚障害者のための要約筆記者各2集団を対象に、尾括型の論説文の読解と聴解による要約文調査の結果、元の文章(「原文」)の尾括型を反映する表現が多く残存する傾向がある程度共通して認められた。ただし、朗読の話段を反映する聴解要約文には、原文の言い換えや誤りも多く、再構成は少なく、要約者集団の差異も目立つ。 要約文は、原文中の段の構造と機能を裏付けるものであり、統括力の大きい主題文や中心文の要素が残存しやすい。
|