本研究は、日本語の文章・談話における「段」という言語単位の構造と機能について、先行研究の理論的検討と、読解および聴解による要約文の調査結果によって、解明しようとするものであるが、以下の知見が得られた。 (1)日本語の最大の言語単位である「文章」と「談話」の直接成分は、いわゆる「改行段落」ではなく、話題の統括機能を有する「段」という単位である。 (2)「段」は、原則として、提題表現と叙述表現で話題を表す「中心文」と、それによって統括される連文から構成される。「段」は、改行の有無にかかわらず、内容上の一まとまりとして他と相対的に区分される単位であるが、文章・談話の目的や内容に応じた、大小様々な話題のまとまりを反映する重層構造を形制する。 (3)現代日本語の文章には、「頭括型」「中括型」「両括型」「尾括型」「分括型」「潜括型」という6種の「文章型」があるが、文章全体を統括する「主題文」をともなった「中心段」の出現位置と頻度から分類される。 (4)日本語の談話の「話段」は、単一文脈の文章の「文段」に比べ、複合文脈の発話連鎖による複雑な統括機能が認められ、「文章型」とは異なる複雑な「談話型」もある。 (5)日本語の文章には、終了部の中心段によって文章全体を統括する「尾括型」が多く、また、複数の主題が散在する「分括型」もある。 (6)日本人の大学生と、聴覚障害者のための要約筆記者の各2集団を対象に、尾括型の論説文の読解と聴解による要約文の調査結果から、元の文章(原文)の尾括型を反映する表現が有意に多く残存する傾向がある程度共通して認められた。ただし、朗読の話段を反映する聴解要約文には、原文の言い換えや誤りも多く、再構成は少なく、要約者集団の差異も認められる。 要約文は、原文中の段の構造と機能を裏付けるものであり、統括力の大きい主題文や中心文の要素が残存しやすい。 本研究において、日本語の文と文章、あるいは、発話と談話の中間に位置する言語単位の「段」、すなわち、「文段」と「話段」の存在が実証されたことになる。さらに、「段」の本質としての「統括機能」の種類と「統括力」の程度を反映する言語形態的指標についても、明らかにされた。今後の課題としては、段の重層構造を認定するための基準と形態的指標の組み合わせによる統括機能の種類の違いを把握することが考えられる。
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