本研究の目的は、聴覚障害児の数学的意味の構成に及ぼす談話の効果を解明することである。この目的を達成するために、今年度(2年計画の1年目)は、以下の3つの下位課題について検討を行ってきた:(1)数学の学習場面における聴覚障害児の談話の構造を記録する記述方法の開発、(2)記述されたデータの分析方法の開発、(3)数学的意味の構成に関する聴覚障害児の談話の構造と機能の同定。これらの下位課題に対して、私たちは以下のような課題解決を行った。(1):従来の方法では、観察者が聴覚障害児の手話や口の動きを翻訳し、聴児の談話プロトコールと同様の形式で、聴覚障害児の談話を記録していた。しかし、この方法では、すでに観察者の解釈が施されてしまう危険性があるので、聴覚障害児のコミュニケーション行為をそのまま第1次記録として記述する方法を開発した。(2):第1次記録をプロトコール形式に置き換える段階から、データ分析が始まるという認識を重視し、聴覚障害児間での他者のコミュニケーション行為の解釈に関する研究を深めることにより、研究者のデータ分析能力の向上を図った。しかし、普遍的なデータ分析の方法が明確に確立されるまでには至っていない。(3)聴覚障害児間の談話分析を通して、聴児における談話分析で得られたきた創発連鎖モデルが、聴覚障害児の場合にも適用できる見込みが得られた。すなわち、下位目標(2)の分析方法が確立されれば、数学的意味の構成に関する談話の構造と機能に関するデータの分析は、聴覚障害児の場合にも、聴児の研究で得られてきた創発連鎖モデル等の適応が可能であることがわかってきた。初年度の成果を受けて、2年目の研究では、以下の2つの下位課題に取り組む予定である。(4):数学の学習場面における聴覚障害児の談話の構造と機能の同定。(5):聴覚障害児の数学的意味の構成に及ぼす談話の効果の同定。
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