研究概要 |
目的:昨年度の研究で培養皮膚線維芽細胞を継代すると継代晩期の細胞では透過型電子顕微鏡にて継代早期の細胞のミトコンドリアに比べて幅が細く,内部が無構造様に見え,cristaeが不明瞭なミトコンドリアが観察された。ミトコンドリアは細胞内のクエン酸回路,電子伝達系の存在する場所であり,常に酸化および過酸化による傷害に曝されている器官とされている。本年度の実験では抗酸化剤が細胞の老化,増殖能,ミトコンドリア形態にいかなる影響を与えるかについて検討した。 材料と方法: TIG103細胞(正常培養皮膚線維芽細胞)を継代して16代とし,この細胞を4群に分けてそれぞれ通常の10%FBS-DME培養液のみ,それに抗酸化剤とされるα-tocopherol(10μM),Sodium ascorbic acid(20mg/dl),BHT(10μM)を加えたもので培養した。 結果:抗酸化剤無添加のコントロールに比べてα-tocopherol,Sodium ascorbic acid,BHTを加えた細胞の成長曲線(3,7,11日で観察)はいずれも抑制されていた。α-tocopherol(10μM)およびSodium ascorbic acid(20mg/dl)を添加した細胞では著しく細胞増殖が遅れ,コントロールが27代まで継代された時点で17代に継代ができなかった。BHTを加えた細胞はこの時点で22代までの継代が行われたがコントロールに比べての増殖能の低下は明確であった。この細胞のミトコンドリアを電子顕微鏡で観察したが,とくに形態への影響は見られなかった。 考察:別にラットの大動脈中膜平滑筋細胞を用いて同様の添加実験を行ったがやはり添加により増殖が抑制された。この増殖抑制作用により抗酸化剤によるミトコンドリアの老化変性へのインターベンションは明らかにすることができず,別の方法を用いる必要がある。
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