研究概要 |
線維芽細胞には定められた分裂能のポテンシャルがあり,継代によりそれが減少する。このポテンシャルを細胞寿命と呼び,減少の過程を細胞(継代)老化と呼ぶ。一方ミトコンドリアは細胞の呼吸機能を担い、生命維持に不可欠の細胞小器官である。ミトコンドリアはその機能上直接酸素にされされることで過酸化による老化促進のターゲットとして重要視されている。ミトコンドリアは独自の環状DNAの遺伝子を有しており,細胞のゲノムとは別個の複製、転写を行う。ミトコンドリアの遺伝子はヒストンによるDNAの保護作用がなく、またDNAの傷害に対する修復系を持たないことでゲノムの遺伝子に比べて遺伝子の傷害が蓄積しやすいとされる。本研究では先に単離したヒトミトコンドリアM1のシークエンスの一部をプローブとしてNorthern analysisによりミトコンドリアの細胞老化および遺伝性早老症であるWerner症候群の細胞におけるミトコンドリア遺伝子発現の変化を観察した。その結果、継代老化とWerner症候群の細胞でともにその発現が低下していることが見い出された。さらに、電子顕微鏡による形態学的な検討では継代老化により細長く、内部の透過性の低い、cristae構造が消失したミトコンドリアの増加が見い出された。ミトコンドリアのこの形態学的変化は早期の分裂能喪失の原因がヘリカーゼ遺伝子の欠損に由来するWerner症候群の細胞では認められず、基本的には分裂回数を重ねることにより起きるものと考えられた。ミトコンドリアゲノムの発現の低下とこの形態学的変化との関係についてはさらなる検討が必要である。
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