Tauはアルツハイマー病(AD)に特徴的なPHFの主成分である。PHFの形成は痴呆と相関することから、その形成機序の理解はADの解明につながる。 1. クロロキンミオパチーの解析 クロロキンミオパチー(chloroquine myopathy;CM)では筋細胞内にtauが蓄積する。AD脳におけるPHF形成の手がかりを得るため、CMにおけるtauの蓄積機構を詳細に調べた。tau mRNAは初期のCM組織で一過的に過剰発現し、その後定常レベルに戻った。他方、tauのタンパク量はCM初期には増加せず、後期の約56日をピークに徐々に増加した。Lysosomeでの分解が証明されているβ-amyloid protein presursor(APP)のmRNAレベル、APP分子全体およびC末端断片の動態はtauのそれらと類似していた。CMにはrimmed vacuoleが特徴的に認められる。このrimmed vacuoleにはtauの特異的抗体であるtau1とC5の免疫反応性が認められ、lysosomeのマーカー酵素のacid phosphataseの局在と一致した。さらにC5を用いた免疫電顕ではCMのrimmed vacuole内のamorphous materialにtauが存在することが分かった。これらのことはtauが筋肉内ではlysosomeで分解される可能性を強く示唆する。 2. Tau transgenic ratの確立と肝臓での解析 Tauがlysosome経路で分解されるかどうかを肝臓で検討した。肝臓でのtauの発現レベルは低いので、ニワトリβ-actin promoter制御下でtauを肝臓で発現するtransgenic ratを作成した。システインプロテアーゼインヒビターであるleupeptinをこのratの腹腔内に投与し、autophagolysosomeを分画し、tauが存在するかどうかを調べた。Leupeptin処理しないとtauは認められないが、leupeptin処理をするとtauのシグナルが認められた。この結果は、肝臓においてもtauはlysosome経路で分解される可能性を強く示唆する。 3. tauのlysosome代謝経路に関与するreceptorの検索 Rat脳よりtauと結合するlysosome膜蛋白質(receptor)の検索を行った。Lysosome蛋白質をSDS-電気泳動で分離し、ニトロセルロース膜上に固定し、tauを上層し、結合したtauを特異抗体を用いて検出した。その結果、130、100、76 kDaの蛋白質が tau と結合することが分かった。また、l% Triton X-100でlysosome膜を可溶化し、tauを固定したカラムに供し、結合する蛋白質を分離した。N末端アミノ酸配列より、MP-50(glutamate dehydrogenase)を同定した。
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