アルツハイマー病(AD)の患者脳にはアミロイドβ蛋白(Aβ)が沈着しており、ADの発症と密接な関連があると考えられている。Aβはアミノ酸残基数約700の膜蛋白であるβ-アミロイド前駆体蛋白(APP)から産生され、C末側アミノ酸が40番目のバリンで終わるAβ40と、さらに2残基長いAβ42の2分子種が存在することが知られている。過去の研究結果はAβの脳組織への沈着にはAβ42が中心的役割を果たしていることを示唆しており、Aβ42の産生抑制がADの治療に結びつく可能性が指摘されている。しかしながら、APPからのAβ産生機構や細胞内産生部位は現在のところ不明である。本研究は、Aβの細胞内産生部位をAβ40とAβ42を別個に検出することができる鋭敏なELISA法を用いて同定することを試みたものである。 実験にはAPPを遺伝子導入した培養細胞を用いた。まず、培地中に小胞体からゴルジ装置への膜輸送を阻害するブレフェルディンAを添加すると、Aβ42のみが細胞内に蓄積し、Aβ40は検出できなかった。次に、ゴルジ装置内の膜輸送を阻害するモネンシンの添加ではAβ40、Aβ42のいずれもが細胞内に蓄積された。これらの結果はAβ40はゴルジ装置内で、Aβ42は小胞体とゴルジ装置の両者で産生されている可能性を示唆している。ADの病因遺伝子のひとつであるプレセニリンは小胞体とゴルジ装置に分布し、そのアミノ酸置換によってAβ42の産生が特異的に上昇することが知られている。プレセニリンの存在部位と今回判明したAβ42の産生部位とが同じであったことは、両者が小胞体を中心とした部位で関連しあっていることを示唆している。
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