研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の患者脳にはアミロイドβ蛋白(Aβ)が沈着している。in vitroレベルの実験では,Aβに細胞毒性がみとめられることから,in vivoでもAβの沈着によって,脳細胞の変性が誘導されていると考えることができる。しかし,Aβが脳に多量に沈着しているトランスジェニックマウスには,神経細胞死がみとめられないことから,Aβの存在がADで生じる神経細胞死の原因であると断じることはできない。我々は昨年度に,Aβの細胞内における産生部位の同定に焦点を絞って研究を進め,その部位をほぼ確定できた。本年度は以上の理由から,Aβの沈着がADの原因ではなく結果である可能性を検討することとした。 我々はコレステロールの担体蛋白であるアポE蛋白の遺伝子多型が,ADの重要なリスクファクターであることに注目した。コレステロールは細胞膜の重要な構成成分であり,かつ,その代謝産物は細胞の老化やアポトーシスと密接な関連があることが,最近示されている。そこでまず,細胞(K293細胞)のコレステロール含量の多寡がAβの産生量に与える影響について検討した。この結果,過剰のコレステロールによって,Aβの産生が低下する傾向が認められたが,実験ごとのばらつきが大きく,統計学的に有意な結果は得られなかった。次に,細胞膜中に含まれるスフィンゴリン脂質の多寡とAβの産生量を検討したが,やはり統計的に有意な結果は得られなかった。
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