研究概要 |
近年の家族性アルツハイマー病の分子遺伝学・分子生物学的成果の蓄積により、脳におけるβアミロイド前駆体蛋白(APP)の代謝、βアミロイドの形成およびその凝集・線維化のプロセスが本疾患の病態生理の深く関わっていると理解されつつある。また、βアミロイド形成に直接関与するsecretase類(α、βおよびγ)の候補はかなり報告されているが、殆どは合成基質に対する活性であり、ヒト脳の系で確実に同定されたのもは未だない。研究対象とした68Kセリンプロテアーゼは家族性アルツハイマー病由来リンパ球より独自に単離・精製した酵素で、合成βアミロイド基質をそのN端で切断し、リンパ球由来の16kDaβアミロイド含有ペプチドをもおそらくそのN端で切断するβーsecretaseであると思われる(Matusmoto,A.et al.Biochemistry,33, 3941-3948、1994)。 (対象・方法)複数のリガンド特異的アフィニテイークロマトを用い、正常人脳(海馬)標品から酵素群を粗精製し、調製型非変成電気泳動により蛋白を単一成分に分離精製した。基質として、天然APP及びβアミロイド含有ペプチドを海馬標品から免疫沈降により精製した。天然基質に対する活性として、生理的条件下における結合能、βアミロイド含有ペプチドの切り出し能、各secretase能等を解析し、アッセイは主としてWestern法によった。 (結果・考察)アルギニンリガンドに弱く結合する67kDa蛋白が天然APPに結合しβアミロイドの細胞外ドメインエピトープをマスクすることを見いだしたが、アミノ酸シーケンシングの結果アルブミンであると同定した(論文1)。他のセリンプロテアーゼリガンドに対する結合画分中に68Kセリンプロテアーゼ(免疫学的に確認)を見いだしたがリンパ球と異なり量的に非常に少なく充分な解析が困難であった。また43kDa蛋白がAPPからβアミロイド含有ペプチドを切り出す活性をもち、しかもその活性が天然APPのヘパラン硫酸糖質に大きく影響されることを見いだした(論文3)。現在本酵素の分子生物学的解析を行っている。現在までの解析を通じてsecretase類についても組織特異的発現が著明で、主要な機能を果たす酵素の種類のみならず含硫糖質などの間質修飾因子の関与も重大であることが明らかになった。
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