研究概要 |
本研究は過酸化脂質の消去に与る酵素の遺伝子を細胞や動物個体に導入し、その活性を高めることにより、細胞あるいは動物の老化を制御することを目的としている。研究代表者らは特にリン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ(PHGPx)に注目し、平成10年度には以下の点を明らかにした。 1.PHGPxを発現していないモルモット由来細胞に過酸化脂質を添加するとその濃度依存的にミトコンドリア(Mt)膜電位(Δψm,蛍光プローブJC-1で観察)は早期に著しく低下するが、ヒトPHGPx遺伝子を導入し、高発現している細胞では過酸化脂質によるυmの低下は抑制された。すなわち、PHGPx遺伝子を導入することにより、過酸化脂質の細胞障害作用を抑制し、Mtの機能を保持できることを明らかにした(発表)。さらに、Mtの主要な脂質であるカルジオリピンが過酸化されるとシトクロームCとの相互作用が消失ることを見い出した。このことは細胞死につながる重要な現象である。しかし、研究代表者らはPHGPxがカルジオリピンの過酸化物を効率良く消去すること及びカルジオリピンによりPHGPxが著しく活性化されることも明らかにした(投稿準備中)。 2.ヒトPHGPxのcDNAを組み込んだpRetro-Off Vectorを用い、ラット胸部大動脈由来平滑筋細胞にPHGPx遺伝子を導入し、クローンの選択をおこなったが、本酵素を高発現している細胞を確立するまでに至っていない。現在継続中である。 3.リポソーム法により、動物個体に効率よく外来遺伝子を導入、発現させる方法を確立するため、ルシフェラーゼ遺伝子を用いて基礎的検討を行った。その結果、従来使用してきた正電荷リポソームをさらに修飾することにより、マウスの肝臓、心臓、肺臓においてルシフェラーゼの発現を著しく高めることが可能となった。現在、正電荷脂質の誘導体を種々合成し、発現効率をさらに高めることを検討している。それと並行して、レポーター遺伝子やPHGPx遺伝子を老化促進モデルマウス等に投与し、その発現を組織学的に検討している。
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