研究概要 |
若い成熟ラットの脊髄運動ニューロンは通常一酸化窒素合成酵素(NOS)を発現していないことが報告されている。本年度は高齢になると運動ニューロンの中にNOSを発現するものが出て来ることがあるか否かを、組織化学的方法によってnicotinamide adenine dinucleotide phosphate-diaphorase(NADPH-d)陽性細胞を検出し、その細胞の特性を調べることによって検討した。実験は3つの異なる月齢グループ(若齢群:13-15ヵ月齢,n=9、中年群:24ヵ月齢,n=5、老齢群:29-32ヵ月齢,n=10)のF344ラットを用いて行なった。若齢群の腰部脊髄(L4-6)外側運動核内に大型のNADPH-d陽性細胞は全く見られなかったが、中年群、老齢群ではそれぞれ2.2±0.8(mean±S.D.)、7.9±5.4見られ、月齢が進むに従って増加していた。このNADPH-d陽性細胞の出現時期は運動ニューロン数が減少し始める時期とほぼ一致していた。これらのNADPH-d陽性細胞は多極性で、細胞体断面積は820±245平方ミクロン(n=56,範囲:359-1460平方ミクロン)と、大型運動ニューロンの範囲に分布しており、その脊髄内の分布部位とも合わせてアルファ運動ニューロンと考えられた。しかし、坐骨神経内に注入された蛍光色素(FluoroGold)で標識されなかった(3匹、17のNADPH-d陽性細胞)。従って、これらのNADPH-d陽性細胞は、その軸索が萎縮・変性によって末梢から後退してしまった運動ニューロンの可能性が強い。以上、本実験に於ける所見およびこれまでの報告から、高齢ラットに起こってくる運動ニューロン死に一酸化窒素が関与していることが示唆された。
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