I. 軸索の退縮と細胞死について: 軸索が退縮してしまって脊髄外に出ていない運動ニューロンが老齢ラットでどの位生存しているのかを、末梢神経に注入されたHRPによって標識されない運動ニューロンの数を老若ラットで比較することによって検討した。非標識細胞の数は高齢になっても増えておらず、軸索が退縮してしまった運動ニューロンが長期間生存していることはないことが示唆された。 2. 一酸化窒素合成酵素の型について: NADPH-d陽性細胞が発現している一酸化窒素合成酵素について、神経型・誘導型・上皮型に対する抗体を用いて免疫組織学的に検討した。連続切片でNADPH-d陽性細胞は神経型一酸化窒素合成酵素に対する免疫活性を示すことを明らかにした。 3. アポトーシスとの関連: 老化に伴う運動ニューロン死がアポトーシスによるものかどうかをTUNEL法を用いて検射したが、典型的なTUNEL-陽性細胞は認められなかった。 4. 栄養因子の関与: 脊髄クモ膜下腔に挿入したカテーテルで神経栄養因子(BDNF10マイクログラム/1日)を慢性投与し(28ヶ月齢から29ヶ月齢までの1ヶ月間)、運動ニューロンに於ける一酸化窒素合成酵素発現の状況を調べた。対照群(緩衝液のみ投与)に比べて、BDNF投与群でNADPH-d陽性細胞が少ない傾向がみられたが、例数が少なく結論を得るまでには至らなかった。以上、軸索が変性・萎縮して末梢神経から退いてしまうと、神経型一酸化窒素合成酵素が発現し、一酸化窒素の濃度が上昇し、細胞は速やかに死んでいくことが示唆された。この死が典型的がアポトーシスの過程を経るのか、一酸化窒素合成酵素発現に栄養因子(BDNF)の不足が関与しているかについては、・更に検討する必要がある。
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