線虫C.エレガンスでは単一の遺伝子変異により寿命が2〜3倍に延長するいくつかの長寿命変異体が知られているが、その寿命延長のメカニズムについてはほとんど分かっていなかった。本研究ではこれらの変異の中で酸化的ストレスに耐性を与えるものはないかを検索した。clk-1とspe-26変異体は野生体と同じ酸化的ストレス感受性を示したが、age-1とdaf-2変異体は強い酸化的ストレス耐性を示した。種々の2重変異体の解析からdaf-18とdaf-16遺伝子はdaf-2の下流で働き、daf-18はage-1の下流ではなくdaf-16はage-1の下流で働き酸化的ストレス耐性を付与することがわかった。daf-16はフォークヘッド転写因子の遺伝子であることから、これらの表現形質は転写因子により発現が調整される遺伝子により引き起こされることが示唆された。そこで抗酸化防御酵素の遺伝子発現を検索した。daf-2とage-1ではミトコンドリアに局在するスーパーオキシドディスムターゼ(Mn-SOD)の遺伝子発現が著しく増大していた。2重変異体の発現を調べたところ酸化的ストレス耐性と同じくdaf-18とdaf-16遺伝子はdaf-2の下流で働き、daf-18はage-1の下流ではなくdaf-16はage-1の下流で働いてMn-SOD発現を調節していた。興味深いことに、この経路では長寿命を引き起こすものと全く同一であった。さらにdaf-2とclk-1の2重変異体を調べたところ、daf-2による酸化的ストレス耐性とMn-SOD発現の増大を著しく上回る増大を示した。この2重変異体は相乗的に寿命延長を引き起こすことから、これらの寿命延長とMn-SOD発現が密接な関連を持っていることが示唆された。daf-2とage-1は飢餓ストレスを受けたとき耐性幼虫として長時間生存するためにMn-SODの発現が増大するがdaf-2やage-1の変異によりストレスの少ない成虫において発現するようになったことが寿命延長を引き起こしたと考えられる。
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