研究概要 |
正常マウスおよびλ5ノックアウトマウスの骨髄細胞を骨髄由来のストローマ細胞株ST2上でプレB細胞増殖因子IL7を含む無血清培地により長期培養することで、正常マウス由来の細胞株BPB、λ5ノックアウトマウス由来の3つの独立した細胞株clone1,clone2,clone3を樹立した。このうちλ5ノックアウトマウス由来の細胞株はλ5を欠損しているため細胞表面におけるSL鎖の発現はみられないが、正常マウス由来の細胞株と同様、B220,IL7R陽性で、H鎖における免疫グロブリン遺伝子の構造はDJ/DJ,L鎖においては胚型のプレB細胞のステージであった。このように樹立されたBPBは培養系からIL7を除くことにより未熟B細胞へと分化を誘導することが可能であるが、λ5を欠損したプレB細胞株clone1とclone3においては、3日間IL7を除いて分化を誘導しても、IgMレセプター陽性の未熟B細胞はほとんどみられなかった。そこで、λ5を欠損したプレB細胞株clone1とclone3にレトロウイルス・トランスフェクションを用いてλ5を再発現させることによりSL鎖の再構築を行った。λ5を再発現させた細胞株clone1-λ5およびclone3-λ5は細胞表面にSL鎖を発現しており、培養系からIL7を除くと、どちらの細胞株も全体の8%程度の細胞がIgMレセプター陽性の未熟B細胞へと分化が誘導された。さらに、BPB,clone2,clone1-λ5の分化前後における免疫グロブリン遺伝子の構造をPCRを用いて解析した結果、clone1においてH鎖の再構成はBPBと同様に正常に起こるが、κ鎖の再構成において著しい低下がみられた。また、λ5の再発現によりSL鎖が再構築されたclonc1-λ5においてはκ鎖の再構成の低下がBPBと同程度まで回復することが示された。 今回の実験から、SL鎖が免疫グロブリン遺伝子κ鎖の十分な再構成に必須であることが示された。このことはSL鎖と機能的なμ鎖からなるプレB細胞レセプターのシグナルがκ鎖の再構成において重要な役割を担っていると考えられるが、実際にどのように免疫グロブリン遺伝子の再構成を制御しているのかは今後の課題である。
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