本年度は、この研究の主眼であるフランスの『任意鑑定』ドイツ、スイスの『仲裁鑑定』イタリアの『自由な仲裁』などの異同を明確にするため、その一つの規準として、多くの場合に『当事者に対する拘束力』が挙げられている点に鑑み、既判力及び執行力をともに有する『国家の裁判所の判決』と執行力しか有しない『非訟事件の裁判』更に既判力しか有しない『仲裁判断』の三者が相互に如何に関連しているかを検討した。 嘗てのイタリアで主張されていたように、私文書である『仲裁人の判断』に『非訟事件の裁判』である執行決定が結合して『国家の裁判所の判決』(既判カプラス執行力)に均しくなるというシェーマは、現在多くの国では放棄されている。他方、『非訟事件の裁判』が限りなく訴訟事件の『判決』に接近して、仮令限定された範囲内であるとは言え、既判力を取得しつつあるのも最近の世界的な潮流である。養子縁組や協議離婚のように、当事者の合意とその合意を認可する非訟事件の裁判が結合して新たな法律効果を生じさせるというローマ法以来の伝統的な枠組が崩れて、非訟事件の裁判が当事者の合意の瑕疵を吸収する(=既判力がある=合意の無効確認の訴を許さない)ということになるのである。このような見地から見て、仲裁だけが謂わば旧態依然として、当事者の合意の帰結としての仲裁判断とその認可である執行決定という図式に留まっていて良いかはかなり問題であろう。そして更に、その狭間に漂う『任意鑑定』や『仲裁鑑定』『自由な仲裁』などが今後はどのように位置付けられなければならないか、それを決定することも重要な課題である。
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