理論上は明確に区別されながら、仲裁に極めて近接したものとして、実際には屡々混同される制度として鑑定がある。特に最近の国際契約では、この鑑定が裁判手続や仲裁手続と独立した一個の手続として、いわゆる『独立した鑑定』(expert independant)として用いられることが多い。そこで、この研究では、先ず、フランスの『不服を申し立てられない鑑定』ベルギーの『任意鑑定』ドイツ、スイスの『仲裁鑑定』イタリアの『自由な仲裁』などのそれぞれに相似た、しかし、幾分は異なっている諸制度が各国の判例でどのように扱われているかを比較検討して、これを六個のヴァリエーションに分類した。その結果、仲裁と鑑定との異同を明確にする規準として、その対象(事実問題か、法得問題か)と紛争の有無が挙げられ、多くの場合に『当事者に対する拘束力』が重視されていることが明らかになった。 更に、『国家の裁判所の判決』とともに既判力及び(または)執行力を有する調停・訴訟上の和解や、当事者に対して法的な拘束力を有する和解契約と『仲裁判断』の比較検討によって、これらが相互に補完する性格のものであることも明らかになった。 このようなことは、裁判私法の基本である裁判というもの、すなわち、訴訟事件の裁判、仲裁判断、更には非訟事件の裁判の三者を『裁判権』(iurisdictio)という一本の太い糸で貫いて、三位一体を実現したものであると言って良い。そして、正にその点にこそ、近時の諸国の立法を導いているひとつの大きな潮流、仲裁判断の裁判化(juridictionalisation)の真の姿がある。
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