研究概要 |
本研究では,聴覚感性に「聴覚ハードウェア」→「聴覚ソフトウェア」→「知識・意識データベース」からなる階層構造を仮定する.ここで,聴覚ハードウェアとは,聴覚末梢系の生理学的機能を模擬し,また聴覚ソフトウェアとは,脳内の神経回路の機能を模擬する新しい概念である.本研究の目的は,この階層構造における,動的情報処理部(音の時間変化の情報を抽出し尺度化する部分)を記述することである.本年度は,聴覚ハードウェアおよびソフトウェアにおける動的情報処理部を解明するための研究と,知識データベースの寄与を調べるための準備を行った. 聴覚ハードウェアおよびソフトウェアの動特性を調べるために,時間包絡特性が体系的に異なる振幅変調音について,音色の類似度を問う聴取実験を行った.実験結果を,多次元尺度構成法により分析したところ,聴覚系は刺激音の立上がり部分を強調する形で振幅変調音を処理していることが明らかとなった.この処理系を合成分析手法により解析したところ,ハードウェアとしては微分器に相当する系,および変調フィルタバンクの特性が大きく影響していることが示された.また,ソフトウェアとしては,聴神経の時間-周波数-興奮パターンと,変調フィルタバンクからの出力についてユークリッド距離を計算していると考えるのが妥当であることが示された. 知識・意識データベースの寄与を明らかにするための準備として,まず被験者に提示音が何の音であるかを教示せずに種々の環境音を評価させる実験を行った.次に,音源の種類と録音場所を言語により教示することにより,知識データベースを駆動した条件で実験を行った.実験はSD法により行い,因子分析により分析した.これまでに個々の実験結果の分析が終了しており,7因子を抽出した.今後は2つの実験結果の比較を行い,知識データベースの寄与を詳細に検討する予定である.
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