本研究は、サイバースペースにおけるテキスト(文字)情報や画像情報などによって伝達される情緒、感性、対人距離、社会的状況などの感覚的表現とその読解を「電子感性」と定義し、電子感性の介在したコミュニケーションと、現実世界のコミュニケーションとの差異について解析した。具体的には、3つのバーチャルチャット「ハビタットII」、「Jチャット」(ハビタットIIの後継版)、「WorldsAway」(ハビタットIIの海外版)について調査・分析を行った。アバタ間距離の測定、アバタボディの体型選択、アバタボディの性選択と性転換、アバタボディのカラーリング、アバタヘッドの形状選択、アバタヘッドのカラーリングなどについて利用状況を調査した。その結果、距離に関しては、密度の高いときは55pixel、密度の低い場合は75pixelが2アバタ間において保たれることが明らかとなった。しかし、2アバタ間の距離は、対面方向(部位)によって異なることが判明し、グラフィックス描画された仮想世界でのアバタ間距離にあっても、人間行動学や社会心理学などで言うところの「パーソナルディスタンス(個体距離)の異方性」に似た現象を示すことがわかった。このことは、アバタ間距離がウインドウ内オブジェクトのレイアウト行為として行われているのではなく、対アバタ関係を意識した"スペーシング"として調節されている可能性を示唆するものと考察された。利用者によるアバタのヘッドとボディの選択については、体型・形状の利用状況を調査した結果、多様に分散するのではなく、いくつかの種類に集中して選択されることが明らかとなった。アバタの皮膚部についてのカラーリング(塗装)についても同様の結果が得られた。これらの結果は、ビジュアルな仮想世界において利用者は、目立ったものや奇抜なものというよりは、むしろ、"フツウ"な形状、"一般的"なタイプ、"淡い"色合い、"light"な感覚などを好む傾向にあることを示しており、性別や行動表象の点で中世化の様相にあると考察された。
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