研究概要 |
食品のおいしさは,味覚や嗅覚のみならず,テクスチャー(触覚)や見た目(視覚)にも多大な影響を受ける.しかしながら触覚や視覚を代行するセンサは既に存在するため,これらから生じる感性を物理的データを用いて表現することは可能である.それに対して味覚や嗅覚から生じる感性を信頼できる客観的言葉を用いて表現することはこれまで全く不可能であった. 本研究では以上の背景をふまえ,味覚センサを用いて“おいしさ"という感性を客観的,物理化学的要素に翻訳し,具体的に定量化することを目指した. 脂質膜を利用していた現有の味覚センサは酸味,塩味,苦味そして“うま味"には非常に高感度で応答するものの,甘味には比較的感度が鈍い.牛乳のおいしさを構成する一つの要因は甘味であるため,この点の改良がぜひとも必要である.そこで生体における糖受容タンパク質であるレクチンを脂質膜へ混入させることを試みた. 加熱処理温度,処理時間,ホモジナイズ圧力の異なるサンプルを準備し,官能検査を実行し,おいしさ,こく,酸味,甘味等のデータを得た.次に現有設備を用いてタンパク質変性量と脂肪球分布(サイズ,広がり)を測り,また申請備品である電気伝導率計と屈折率計を用いて牛乳の電気伝導度と屈折率を測った.まずこれら官能表現,分析値の間の相関を取り,クラスター分析などを行い,各量の類似度,独立性を評価した.さらに味覚センサを用いて測定を行い,センサ出力とこれらの量全てとの相関を調べた.結果として,味覚センサの出力は他の手段で得られた各種物理化学量と高い相関があることが見出された.
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