本研究の目的は、ニューラルネットワークが学習によって獲得する入出力間の写像特性を利用して、これまで個々に検討されてきた衣服着用時の快適性に及ぼす衣服気候や衣服の素材特性などの諸因子の影響や、それらによって引き起こされる着用時の諸感覚、生理特性などとの関係を総合的にかつ定量的に評価することである。実験は異なる水分特性の綿、ポリエステル、改質ポリエステル衣服着用による被験者実験を行い、得られた衣服気候、人体生理、着用時の諸感覚等のデータを用いて、まずニューラルネットワークのモデル構造を決定し、学習させた。さらに入力因子やニューラルネットワーク構造を変えることによって、入力因子の快適性への影響強度を定量評価した。また、従来から行われてきた衣服気候や多変量解析等による着心地の評価も行い、比較検討した。 その結果、汗の吸湿・吸水能力の大きい綿素材の衣服を着用した方が、ポリエステル素材衣服着用時より着用快適性の汎化能力は小さかった。また、着用快適性を与える出力ユニットと中間層ユニット間の重み係数空間の比較では、改質ポリエステル繊維は水分特性の近い綿と同様の重み係数空間を示した。このように親水性、疎水性繊維の差がニューラルネットワークを利用した快適性予測評価において汎化能力や重み係数空間の差として見い出され、本手法により着用快適性への衣服素材の影響も評価可能であることがわかった。 また、二次多変量解析による着用快適性の推定では、入力因子を増やすことによってニューラルネットワークでの予測と同等の結果を得ることができたが、多変量解析では適切なモデルを構築する指針がないのに対し、ニューラルネットワークによる解析では自らモデルを構築する柔軟性をもっており、身体生理変化を伴うような正確なモデル化が困難な対象についても、精度の高い予測が可能であることがわかった。
|