研究概要 |
現生人類集団の頭蓋形態とその地理的変異を明らかにするために、前頭部・顔面の平坦度について世界の112集団を、縫合間骨に関する非計測的頭蓋形態小変異の5項目(Inca bone,ossicle at lambda,parietal notch bone,asterionic bone,occipito-mastoid wormian)の出現頻度について82集団を対象として比較検討した結果、東アジアでは南北に大きく変化する地理的勾配が認められた。さらに、東アジア諸集団の特徴は、西ではアッサム、シッキム、チベット、ネパール地域まで追跡することが可能であるが、それ以西の集団ではかなり異なった形態的特徴を示している。また、アメリカ先住民の形態学的特徴が、ある面では北東アジア集団よりもむしろ一部の東南アジア集団に類似する。このことは、ユーラシア大陸東縁および環太平洋地域集団は、おそらく広義の東アジア南部を源郷とする集団である可能性を否定するものではない。一方、ユーラシア大陸の西では、南アジアから、西アジア、北アフリカを経てョーロッパに至る地理的勾配が認められるが、サハラ以南のアフリカ集団では、このような変異から離れ、独自の特徴を示す。この特徴の一部はオーストラリア先住民と共通する部分を含むことは、前年度の研究結果と矛盾するものではない。以上の結果は、サハラ砂漠以南のアフリカ集団が西アジアからおそらくはインドア大陸を経て東南アジア、さらにはオーストラリア大陸まで拡散していったと仮定することで説明可能である。このことは、現生人類の起源について、形態学的にもアフリカ単一起源説を支持できることを示唆していよう。
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