現生人類の起源に関しては、アフリカ単一起源説と多地域進化説の二仮説があり、今日まで議論されつづけているが、どちらかといえば前者を支持する研究結果が多いと思われる。この問題に対するアプローチは、形態学の分野では化石人類の研究に偏っており、したがって、化石サンプルの形態的解釈がその主たる論争の的になっている。ところが、どちらの説を採るにせよ、世界の様々な地域に分布する現生人類集団の変異がそれぞれの説におけるフレームワークの中でどのように説明されうるのかという問題は残されたままである。本研究では、世界の主要集団112サンプルを対象に、頭蓋計測値、非計測的特徴(解剖学的小変異)のデータを収集し、その地理的変異、多様性とその自然的背景を検討することによって、集団間関係がどのように説明され得るのかを検討した。 現生人類集団の頭蓋形態は、サハラ以南のアフリカ諸集団において最も変異に富み、また多様であった。また、これらアフリカ集団に最も類似する集団は近隣集団ではなく、オーストラリア先住民であった。また、いくつかの形質おいては、南北、あるいは東西の地理的勾配が見出された。このような形質の地理的勾配は環境又は生業形態への適応と遺伝的背景の両方の解釈が可能であろうが、いわゆるmarginal isolatesでは、周辺諸集団とは大きく異なる形質の地理的不連続も認められた。このことはその形質の遺伝的背景を示唆すると共にその集団における形態のdifferential retentionあるいはspecializationを示唆するものとして重要な意味をもつ。これらのことについて詳細に検討した結果、現生人類の形態変異はアフリカ単一起源説のフレームワークの中で説明し得る可能性が見出された。
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