進化過程において異種が形成されそのまま種として維持されるには、もとの種と派生しつつある種との間で、遺伝子の交流を防ぐ機構としての隔離が必要不可欠である。アナナスショウジョウバエ類(Drosophila ananassae complex)の近縁な2種であるD.ananassaeとD.pallidosaは同所的に生息しているが、交配後隔離は発達していないため、妊性のある雑種を形成する。これらが種として存続するには交配前隔離における性的隔離が必要不可欠である。この性的隔離を維持するために求愛歌が重要であることが示唆されている。交尾の成功に大きな役割を果たすシグナルのひとつである、求愛歌の解析を本年度の目的とした。D.ananassaeとD.pallidosaとが同所的に採集された地域の12系統を用いて求愛行動を録画し、同時に求愛歌を録音して分析した。求愛歌の波形は2種で明らかに異なり、同種の各系統ではほぼ同様の波形が得られた。また他のショウジョウバエ近縁種を用いた研究から、性的隔離に重要であることが示されている求愛歌のパラメーターのひとつであるパルス間間隔には、種間差は見られなかった。それぞれの種内系統間で波形がよく保存されていたことから、その特徴を調べるために高速フーリエ変換による周波数分析を行った。その結果、それぞれの種内系統間ではよく似た波形の特徴を持つが、種間では異なる特徴を持つパターンが得られた。また、種間雑種においてはD.pallidosaに似た結果が得られたが、D.ananassaeの持つ波形の要素をも、持ち合わせていることが認められた。
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