バラ科バラ属(Rosa)は北半球の温帯を中心に100〜150種があるとされる。生態学的には茎や枝に刺が発達し、枝はつる状に伸長する種もあり、林間や林縁や伐採跡地などの撹乱を受けやすい場所での競争に適した種と考えられる。日本ではバラ属から約30種が報告されるが、その実体が未だよく解明されていない。このような実情を反映して、ノイバラ節(Synstylae)は分類体系に定説がなく、分類群の境界やそのくくりの設定も定かではない。本研究では、まず、日本のバラ科バラ属ノイバラ節の学名のもとになるフランシェ・サヴァティエ(Franchet & Savatier)命名の基準標本を含むパリ自然博物館収蔵のサヴァティエ・コレクションの観察を行い、命名上の問題を整理した。 本研究において、集団内および地理的変異の掌握し、種を識別するための有効な形質を見出すために必要な材料を国内各地から収集し、また、日本産種に近似する外国産種の材料の送付を国外研究者に依頼した。 また、フランシェ・サヴァティエの後、日本のバラ属の研究を行い命名した小泉(Koidzumi)、牧野(Makino)、中井(Nakai)、籾山(Momiyama)の命名の基準となった標本を探し出した。標本の検討に必要な文献資料を購入し、記載と標本を照合し、lectotypificationを行った。 本研究により、生殖器官を中心に形態学的形質が明らかになりバラ属ノイバラ節における各分類群の実体を明確にすることが可能となり、本研究から得られた研究成果をもとに、バラ属の系統分化と、日本のバラ属植物について形態学的形質により識別した種を基準とした分類誌である「日本産ノイバラ節の種及び種内分類群」という論文を、専門誌への投稿に向けて、まとめ中である。
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