研究概要 |
本研究は、バラ属の系統分化と日本のバラ属植物について形態学的形質により識別した種を基準とした分類誌を完成することを目的としている。そのために本年度は、1 集団内および地理的変異の掌握、2 種を識別するための有効な形質を見出すこと、3 FranchetとSavatierにより命名された種および種内分類群の証拠標本の正体を明らかにして、現在の国際植物命名規約に従いレクトタイプを定め、形態学的形質、解剖学的形質、分子的形質の諸形質について行った諸解析の結果を総合して、岩槻邦男・D.E.Boufford・大場秀章編「日本植物誌英文版」2b巻(Flora of Japan,Vol.2b)のバラ属の原稿を完成した。 従来の研究では見逃されていた重要な発見は、1 従来アズマイバラと考えられていたRosa luciae Franch.& Sav.はテリハノイバラであること、2 テリハノイバラにこれまで用いられてきたRosa wichurae Crep.という学名はR.luciaeの異名となり、R.luciaeがテリハノイバラの正名となること、3 アズマイバラ、モリイバラ、ヤブイバラ、ミヤコイバラはテリハノイバラに変異が連続し、種内分類群として区別されること、4 ヤマイバラ Rosa sambucina Koidz.は他のノイバラ亜属の種とは系統がまったく異なる位置にあること、などである。また、従来日本産バラ属植物として記載または報告された種及び種内分類群の全学名の出典、そのタイプならびに異同を明らかにし論文にまとめた。なお、染色体核型の研究、分子レベルによる地方変異の解析が遅延したため、本研究中に目的のひとつとしたモノグラフの出版までには至らなかったが、3月パリで開かれたバラ属植物分類に関するコンファレンスでその成果を発表した。
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