まず、Wolbahcia感染を伴う遺伝的雄の雌性化についてまとめる。本州の6地点より1997・1998年に採集したアズキノメイガとアワノメイガの雌成虫より、雌バイアス性比が母性遺伝する系統を得た。それらの大半はWolbachiaに感染しており、また、テトラサイクリンによる抗生物質処理実験の結果によって、Wolbachia感染系統の雌バイアス性比現象はすべて、遺伝的雄の雌性化がメカニズムであると考えられた。しかしながら、Wolbachiaに感染しているにもかかわらず性比が偏らない系統も、アズキノメイガ、アワノメイガにそれぞれひとつずつ見つかった。よって今後は、両種に感染しているWolbachiaには複数の系統が存在する可能性も考慮する必要がある。また、アズキノメイガ、アワノメイガあわせて8つのWolbachia感染系統について、WolbachiaのftsZ遺伝子の塩基配列は同一であったので、それらのWolbachiaは同一の系統あるいは極めて近縁な系統からなると考えられる。 次に、母性遺伝する雌バイアス性比を示すが、PCR診断実験によってWolbachiaに感染していないと考えられ、さらに抗生物質処理実験によって、原因がおそらく細菌感染ではなく、遺伝的雄の雌性化がメカニズムではないと考えられる例が、2系統のアズキノメイガに見いだされた。以下、それらの2系統に限って述べる。雌バイアス性比の母性遺伝が不完全であり、性比が1:1に自然治癒するのが無視できない確率で観察された。しかし、一定の遺伝率を示しているようには思われなかったので、遺伝様式の詳細な解明にはさらなる調査が必要である。また興味深いことに、いったん性比1:1に自然治癒した系統がその後、雌バイアス性比に復帰するという現象が繰り返し観察された。この点は、雌バイアス性比の原因が生物であることを示唆している。
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