研究概要 |
強く雌に偏った性比で子を産み(産雌形質),Wolbachiaに感染していないアズキノメイガ系統を5つ確立した.以下,これらを総称してuSR系統と呼ぶ. 飼育・交配実験により,uSR系統の産雌形質は不完全に母性遺伝することが明らかになった.産雌形質が伝わらない場合,子の性比は1:1になった.産雌形質が子に伝わる確率は5uSR系統間でさまざまであり,しかも,同一のuSR系統内に関しても不安定であった.また,いったん産雌形質を示さなくなった家族に由来する雌の子孫が再び産雌形質を示す場合が,uSR系統のそれぞれで観察された.3種類の抗生物質(テトラサイクリン,サルファメトキサゾール,リファンピシン)をuSR系統のそれぞれに対して投与したが、性比に対する効果は認められなかった.uSR系統のそれぞれについて,卵の孵化率と孵化幼虫の蛹化率の各々を調べ,産雌形質を示す場合と示さない場合の間で比較したところ,いずれにも有意な差が認められなかった.uSR系統のいずれについても,産まれた子の性比が雄に偏っている場合は一度も観察されなかった.uSR系統のいずれについても,処女雌による産下卵はまったく孵化しなかった. uSR系統の1つに関して,アズキノメイガ体色暗化系統との交配実験により,雌は生殖に際して交尾相手である雄由来の遺伝子を使っていることが証明された. 以上の結果から,アズキノメイガuSR系統に見られる産雌形質の原因となっている因子は細胞質因子もしくはW染色体因子であるが細菌ではないと考えられた.さらに,産雌形質の機構は,従来鱗翅目昆虫について既知の機構(malekilling,parthenogenesis,gynogenesis,feminization of genetic males)のいずれにも該当しないことが判明した.
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