研究概要 |
本州の複数地点より,1997-1999の3年間にわたりヒメトビウンカを採集し,Wolbachia感染率の空間的・時間的変動を解析するためのサンプリングを行った.ftsZ遺伝子を用いたPCR診断により,ヒメトビウンカに感染しているWolbachiaはすべてB型系統であると考えられた.3遺伝子座によるアロザイム変異データを基に,ヒメトビウンカの長距離移動は集団の地理的分化を妨げる程大きなものではないと結論し,長距離移動はWolbachia感染波の進行に関して大きな役割を果たしていないと考えられることを考察した.Wolbachia感染の蔓延が宿主動物のミトコンドリアDNA変異と生殖隔離に与える効果をまとめ,それらの効果と動物地理学的データ解釈との関連性を考察した. アワノメイガとアズキノメイガについて,雌バイアス性比の子を産む(産雌形質)母性系統を探索し,複数を得た.Wolbachiaに感染している両種の産雌系統のほとんどで,産雌形質は遺伝的雄の雌化によるものと考えられた.したがってWolbachia感染が両種において遺伝的雄の雌化の原因因子と考えられた.両種の雌化Wolbachiaの系統学的位置をftsZ遺伝子塩基配列によって推定した.雌化Wolbachiaの感染は,アワノメイガとアズキノメイガのいずれにおいても自然集団中に低頻度で観察され,実験室内で高い垂直伝搬率を示した.Wolbachiaに感染していない5つのアズキノメイガ産雌系統(uSR系統)については,抗生物質処理実験および細菌特異的PCR実験の結果を基に,産雌形質の原因因子は細胞質ないしW染色体にあり,細菌ではないと考えられた.さらに,アズキノメイガusR系統における産雌形質の機構は,従来鱗翅目昆虫について既知の機構のいずれにも該当しないことが明らかになった.
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