研究概要 |
1.フィールド調査。今年度は九州南部,南西諸島を中心に,亜熱帯地域に分布する樹種の種子採集を重点的に行い,新たに70種の種子を採集することができた。これらの種子は,鳥取大学・京都大学で播種栽培中であり,発芽後,形態研究のための標本として保存される予定である。 2.標本調査。第1年度であることから,これまでに蓄積された樹木実生標本の再整理を行った。その結果,標本の総数はすでに83科229属527種にのぼることがわかった。この結果を利用して,より効率的な採集計画を組み立てることが可能になった。また,今年度はヤマグルマ科,フサザクラ科,カツラ科,トチノキ科,イイギリ科,キブシ科,シナノキ科,キク科,グミ科,ウコギ科について詳細な検討を行った。 3.研究成果の発表。研究成果の一部はこれまで温帯林樹種に関する一連の著作の中で発表しているが,今年度はヤマグルマ科,フサザクラ科,カツラ科,トチノキ科,イイギリ科,キブシ科の6科について発表した。 マンサク目のヤマグルマ科,フサザクラ科,カツラ科の3科は東アジアに固有な科である。これらの実生形態はすべて地上子葉・開出子葉型のオオバギ型であり,散布の翌春または翌々春に発芽する。低出葉はなく,対生のカツラ科をのぞき,他の2科では第1葉から互生である。大きな種子をつけるトチノキの実生は,地下子葉をもち,2枚の子葉が種皮の中にとどまったままのHorsfieldia型である。すべて散布の翌春に発芽し,休眠性は観察されなかった。低出葉はなく,第1葉から対生で,主根がよく発達する。イイギリおよびキブシもまた,地上子葉・開出子葉を持つオオバギ型の実生をもつ。散布の翌春または翌々春に発芽する。いずれも低出葉はないが,イイギリでは第1葉は対生するのに対し,キブシでは第1葉から互生する。
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