キイロショウジョウバエの遺伝学は最も詳細で、他の高等動植物のモデル生物として扱われている。しかし、キイロショウジョウバエに最も近縁なオナジショウジョウバエを用いた遺伝学的研究は少なく、突然変異や染色体異常系統もほとんど存在しない。しかしながら、キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエの遺伝学的関係を明らかにすることは、生物の種の分化の機構を解明する糸口となると考えられている。オナジショウジョウバエにおける種分化遺伝子の研究は進化遺伝学的研究にとっても重要であり、またこれら2種のゲノムDNAに関連したトランスポゾンの研究もあわせて行った。本研究においては、特に下記の3点に焦点を絞った。 1) 雑種救済遺伝子LhrとHmr(=In(1)AB)が雑種雄を救済する際に必要とされるキイロショウジョウバエの染色体領域の決定。33の欠失系統を用いて、第2染色体の約80%に相当する領域を調査したところ、欠失の場合に雑種雉が致死となる領域を6箇所同定した。なかでも、飼育温度が24℃で致死だが、18℃では救済されるといった温度感受性を示す領域が新たに見つかり、今後の雑種致死性の研究への課題となった。 2) 種特異的なトランスポゾンの研究。トランスポゾンの属する中頻度反復配列はオナジショウジョウバエにはキイロショウジョウバエの1/7しか存在しないため、これら2種間のトランスポゾンの比較研究を行う目的で、ninjaとauroraトランスポゾンを調査した。その結果、転位挿入するninjaはオナジショウジョウバエだけに存在するトランスポゾンで、auroraタイプから派生したものであることが判明した。トランスポゾンの進化を考える上で興味深い。 3) オナジショウジョウバエのY染色体の欠失系統の作製。依然作製していた付着XY染色体にX線を照射し、y[+]の標識遺伝子を持つ欠失Y染色体を6系統作製した。
|