オナジショウジョウバエはキイロショウジョウバエと最も近縁なショウジョウバエであるため、種分化機構の解析など進化遺伝学的研究に不可欠な研究材料でありながら、オナジショウジョウバエを用いた遺伝学的研究は少なく、突然変異や染色体異常系統もほとんど存在しない。その原因としては、キイロショウジョウバエの遺伝学は他のあらゆる高等真核生物と比較して最も詳細に研究されており、モデル生物として扱われていることから、近縁なオナジショウジョウバエの遺伝学的特質はほとんど同一であろうと推測されてきたためであると考えられる。しかし、種分化の機構など生物の進化を解明する上で最も基礎的な課題の解明はキイロショウジョウバエに最も近縁なオナジショウジョウバエの遺伝学的類似性とともに遺伝学的差違を明らかにする必要がある。そこで、昨年度の研究を継続すると共に、オナジショウジョウバエ系統の系統化も行った。 1.オナジショウジョウバエにだけ存在するトランスポゾンの確認。ninjaとauroraはレトロトランスポゾンに属するトランスポゾンであり、両者は非常に類似した塩基配列を持っている。しかし、転位挿入する活性のあるninjaはオナジショウジョウバエだけに存在し、不活化したauroraは、オナジショウジョウバエとその近縁の4種に全て残存していることが判明した。トランスポゾンの進化を考える上で重要な研究材料となる。 2.オナジショウジョウバエのwhite-S2系統に非常に不安定なラインが発見された。体細胞系列と生殖細胞系列のどちらでも非常に高い頻度で復帰突然変異を生じる。white遺伝子座に約3.2kbのmariner様トランスポゾンが発見された。構造がこれまでに発見されたmarinerと異なることから、現在構造解析を行っている。 3.オナジショウジョウバエの染色体異常、第3染色体逆位とXのリング染色体の発見と系統化を行った。
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