研究概要 |
脊索動物のホヤは海水中から遷移金属元素のバナジウムを高濃度かつ高選択的に濃縮しており、その血球に含まれるバナジウムイオンの濃度は海水のバナジウム濃度の1,000万倍(10^7)に相当する350mM濃度に達する。近年、統計学的に遠く離れた海産の環形動物の多毛環虫網に属するエラコに、ホヤに匹敵するバナジウムが濃縮されていることが発見された。そこで本研究では、生物が共通の金属濃縮機構を具有する可能性を調べた。本研究でえられた主な成果は以下のとおりである。 1.ホヤのバナドサイトの細胞質中に存在するバナジウム結合タンパク質(VAP:12.5kDaと14kDa、16kDaの3種類)を同定し(Kanda et al.,1997)、それらの部分アミノ酸配列からcDNAの全長を明らかにした。推定されるアミノ酸配列から、これらのタンパク質は金属イオンと結合しやすいシステインを約16%含む新規のタンパク質であることを見出した(未発表)。 2.バナドサイト特異的抗原の解析により、バナドサイトにNADPHを産生するペントースリン酸経路の酵素群が局在していることを明らかにした(Uyama et al.,1998)。 3.バナドサイト特異的抗原と抗VAP抗体を用いて、エラコにもホヤと共通の抗原タンパク質が存在することを見いだした(Uyama et al,1997)。 4.金属輸送体のNrampホモローグのcDNAをホヤの血球のcDNAライブラリーからクローニングすることに成功した。ホヤのNrampホモローグ(AsNramp)は、哺乳類の小腸の管腔からの鉄の取り込みやトランスフェリンサイクルにおけるエンドソームからの鉄の取り込みに働くNramp2と70%n相同性を示した(未発表)。
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