研究概要 |
ワラス線は世界最大の陸棚であるスンダ陸棚とニューギニアとオーストラリアの周辺に発達するサウル陸棚を分割する境界線である.ワラス線が浅海性海産生物の種分化をうながす上で有効に働いているのであろうか.本研究は陸棚に生息する浅海性海産魚類であるニベ科魚類(スズキ目)を事例として取り上げ,ワラス線の障壁としての機能を評価しようというものである. サウル陸棚に分布するニベ科魚類の分類学的な整理を行った.その結果,コニベ属(Johnius)の2未記載種を含む9属22種の本科魚類がサウル陸棚に出現することが初めて明瞭に示された.過去,スンダ陸棚に産する種のシノニムないしは不明種とされてきたNibea leptolepis,Johnius australis,J.pacificusの3種はそれぞれ有効で,すべてサウル陸棚に固有の種である.これら3種のうちJ.pacificusはニューギニアの北岸にのみ出現し,分布パターンとして極めて特異である.総計22種のうち,13種はサウル陸棚に固有の種であり,同陸棚上での本科魚類の固有性は著しく高く,種組成がスンダ陸棚と大きく異なる.また,同一の種であっても,若干の形質において地理的な変異が認められる.したがって,ワラス線が陸上動植物と同様に,浅海性海産生物においても種分化を引き起こしていると考えられる.
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