スンダ陸棚およびサフル陸棚に出現するニベ科魚類の分類学的検討を行った。さらに両陸棚間に位置する島嶼(小スンダ諸島、セレベス等)のニベ科魚類も調査した。その結果、9属21種のニベ科魚類がサフル陸棚上に出現することか確定した。これらの種には1未記載種が含まれ他に、数多くのあらたな分類学的知見が加えられた。21種の内、12種が陸棚の固有種である。したがって固有率は57%にもおよび、ニューギニア・オーストラリア海域の本科魚類は非常に特異な種組成を示す。特定海域での固有率はインド・西太平洋では同海域がもっとも高い。したがって、ワレス線は本科魚類の種分化に非常に大きな役割を担っていると結論される。両陸棚に共通して出現する本科魚類はすべてインド・西太平洋に広域に分布する種であり、また、両陸棚間の島々にはこれらの種のみが分布することも明らかになった。したがって、サフル陸棚の本科魚類は固有種と広域分布種の2要素のみからなる。このような特異な種の構成は海洋生物においては本科魚類で初めて明らかにされたものである。共通して出現すると考えられる種にあっても、いくつかの種においてはサウル陸棚の個体群とスンダ陸棚の個体群を同一視しがたい。したがって、ワラス線は個体群および種レベルで有効に働くきわめて強力な地理的障壁であると結論された。
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