研究概要 |
研究代表者は内地研究員として京都大学の研究分担者のもとに滞在しつつ、同大学理学研究科の既存の液浸標本,凍結組織標本,および研究分担者が新たに採集した標本を用いて研究を実施した.まず,トカラ海峡周辺の個体群を中心としたヘリグロヒメトカゲ,オキナワトカゲ,およびミナミヤモリ各種における形態形質と酵素蛋白の支配遺伝子をそれぞれ多変量解析法とデンプンゲル電気泳動・距離法によって解析した.このうちヘリグロヒメトカゲの外部形態の変異,オキナワトカゲの遺伝的変異,およびミナミヤモリの遺伝的変異についてはそれぞれ得られたデータの解析がすでに終了している.ヘリグロヒメトカゲの形態については,沖縄諸島と奄美諸島の個体群の間で変異が著しく,隔離にともなって両諸島間で分化の進んでいることが示唆された.これに対してトカラ海峡をはさんだ島嶼の個体群間では変異がそれほど明瞭でなく,同海峡を横切るかたちで漂流分散が頻繁に起こり,それにともなって島嶼集団間での遺伝的交流が継続してきたことが強く示唆された.オキナワトカゲとミナミヤモリについても同様な結果が,酵素支配遺伝子の変異パタンにもとづいて示され,後者についてはさらに九州南部に単純な琉球からの分散では説明できない遺伝集団のいることも明らかになった.これらの成果はそれぞれすでに英文学術論文として公表,印刷中(11.研究発表参照),ないし公表準備中である. 今後ヘリグロヒメトカゲについては酵素蛋白を指標とした遺伝的解析を加えることによって,またオキナワトカゲとミナミヤモリについては調査の地理的範囲を拡大しつつ形態に関する解析結果を追加することによって,分散の過程と地理的・経時的パタンに関する今回の仮説を検証・補強してゆく予定である.
|