研究概要 |
本年度はおもにトカラ海峡の北に位置する屋久島や九州本土南部から標本の収集を行なった.このほか解析の際の外群とするためのサンプルについては,その信頼性を高める目的で,沖縄島内や周辺離島も含めより広い範囲から収集をおこなった.さらに昨年に続き,京都大学,および国立科学博物館の収蔵標本についても調査行ない,形態形質の測定・観察を行なった. 採集によって得られたサンプルのうち当初から予定していた3群(ヘリグロヒメトカゲ,オキナワトカゲ,ミナミヤモリ),およびその近縁系統,外群については,昨年からとりためてあったサンプルとともに,特にトカラ海峡の南北での変異に着目しつつ,個体群間の差異を定量的に解析した.その結果いずれの系統においても,トカラ海峡の南北で著しい距離的な差異も,また集団内の多様性における差異も生じていないことが分かった.このことからトカラ海峡は,上記3系統のいずれにおいても,遺伝的交流における大きな隔離障壁とはなっていなことが証明された.さらにこのことは,少なくとも爬虫類においては,海峡を挟んだ個体群間での漂流分散がこれまで考えられてきた以上に高頻度で生じていることを示している. またこの他にも,トカラ海峡周辺を中心とした琉球列島(南西諸島)や九州本土における古地理学的動態と,生物のさまざまな形質における多様化・系統進化との関係を検討する上で意義深いデータ,標本を多く収集することができた("11.研究発表"参照).このうち特にトカラ海峡南部の小島〓群の爬虫類について示唆された急速な表型的特殊化については,今後さらに詳細な調査・研究を行なうことにより,島〓における陸生生物の進化のパタンとその要因について多くの知見が得られるであろう.
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