研究概要 |
日本産サワガニ属(Geothelphusa)には11種が確認されており、その多くは琉球列島の島々に分布している。琉球列島全域に生息する種は無く、ほとんどの種の分布は比較的近接した2,3の島に限定されている。このような分布様式は、日本産サワガニ属に種分化が琉球列島の形成過程における島の分断と密に関わってきたことを予想させる。本研究では11種すべてについて、mtDNAND2遺伝子領域(1,008-1,011bp)の塩基配列を指標に、種間、種内集団間の遺伝的分化、種間系統関係を推定し、それらの結果と琉球列島の陸橋化、分断化等の形成過程に関す地質学的知見とを併せてサワガニ属の進化過程を考察した。 分子系統樹上でほとんどの種は単系統的にまとまり、これまでの分類体系が支持された。しかし、サワガニ(dehaani)で識別された塩基配列の大きく異なるハプロタイプから成る5つのクラスターは、異種のサカモトサワガニ(sakamotoana)のクラスターを含んで単系統群を形成した。また、mineiiは、石垣島、西表島に生息し、最近まで台湾に生息するタイワンサワガニと同種とされていたものであるが、mtDNA塩基配列での両者の差異は僅かであり、他種での集団間分化程度であった。11種は系統樹上で4つの明瞭なクラスターに別れて位置付けられた。分子進化速度から、それらが分岐したのは200から300万年以前と推定されたが、その当時の琉球列島は大陸から離れて、現在の北、中、南琉球相当するいくつかの陸塊に分かれていたと考えられる。従って、サワガニ属の主要な進化系統の分岐は、海による地理的隔離が主要因になってもたらされたものと推察された。その後、200万年前〜100万年前には陸塊はつながり、大陸、台湾から続く陸橋が形成されたが、分子系統樹からこの時期に多様なサワガニ属の種が分化したことが示された。
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