研究概要 |
日本産サワガニ類にはこれまで3属15種(未記載種を含む)が知られている。そのほとんどが琉球列島の島々に生息しているが、琉球列島全域に分布している種は無く、それぞれの種は比較的近接した島々の狭い範囲に限定されて分布している。このような分布様式は、日本産サワガニに種分化と琉球列島形成との密なかかわりを予想させる。本研究では15種すべてについてmtDNA ND2遺伝子領域(1,000-1,011bp)の塩基配列を決定し、それを基に種内地域集団間、種間、属間の遺伝的分化と系統関係を推定した。陸橋化、分断化を繰り返して現在に至った琉球列島形成についての地質学的知見を併せて、日本産サワガニ類の進化過程を考察した。 塩基配列から構築した分子系統樹上で、サワガニ属を構成する11種は明瞭なクラスターを構成したが、ミナミサワガニ属3種の単系統性は確認できなかった。従って、サワガニ類の各属の分岐順序について未解明の部分が残るが、Ryukyum属、ミナミサワガニ続がサワガニ属に先立って分岐したことは結論してよいと思われた。サワガニ属の11種は系統樹上で4つの明瞭なクラスターを形成した。分子時計を適用し、それらを導く進化系統は200-250万年前に分岐したことが推察された。当時の琉球列島は大陸から離れて現在の北、中、南琉球に相当するいつかの陸塊に分かれていたと考えられている。従って、サワガニ属の主要な進化系統の分岐は海による地理的隔離が主要因になってもたらされたものと推察された。その後200から100万年前に琉球列島、大陸から連なる陸橋となったが、各陸塊で分化を遂げた集団はそれと共に分布拡大、適応放散を遂げ、現在のサワガニ属の多様な種が分化していったと考えられる。
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