日本および周辺域に分布するケゼニゴケDumortiera hirsuta complexには、先人の研究から1倍体、2倍体、3倍体の3つのサイトタイプが知られている。日本ではとりわけ3倍体が最も普通であり、1倍体は石灰岩地域に主として分布し、2倍体は太平洋沿岸地域に分布している。 今年度は、1倍体を中心に解析をおこなった。これはアロザイム多型におけるザイモグラムパタンの解析が容易であり、1倍体の解析をはじめにすませることで遺伝子座の比定、対立遺伝子の確定をおこない、次年度以降に2、3倍体の解析に進めるものである。サンプリングは、1、2、3倍体のすべてにおこなっている。 外部形態の観察から、日本の1倍体は葉状体上面のバピラが顕著であり、欧米に広く分布する1倍体種Dumortiera hirsuta sense st.とは形状が異なることが明かとなった。一方マレーシア、インドネシア、中国の1倍体との比較では、同様な形状を示した。結論として、アジアの1倍体はDumorotiera hirsutaとは別の系列の種であることが想定される。アイソザイムからの結果では、アジアの1倍体は同一の範疇には入るものであり、外部形態からの結論を指示するものであった。今後は欧米の1倍体との比較が必要である。 3倍体の予備的な調査では、中国雲南省から得られたサンプルを調べたところ、日本の3倍体と全く同じザイモグラムパタンを示した。外部形態についても違いを見いだすことができなかった。マレーシアの3倍体では、日本・中国の3倍体と較べて、Tpi、Mdhにおいて遺伝子座の増幅が観察され、また他の遺伝子座に置いても異なる対立遺伝子を有していた。このことから、すくなくとも2カ所に置いて平行的に3倍体が生じたものと想定される。
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