研究概要 |
染色体数のカウントによる倍数性の確認,酵素多経による集団間,集団内の遺伝的組成の解明,そして葉緑体DNAのatpB-rbcL遺伝子間領域のシーケンスによるタイプ分けによって,日本の40集団および東アジア,東南アジアの24集団について,ケゼニゴケの生物学的実体の解明と倍数性の由来について検討した.その結果,いくつかの結論と得ることができた.それらをまとめると, 1.従来1倍体広域分布種として認識されていたものに,地域ごとに遺伝的な分化が生じており,形態的には識別が困難ではあるが,別種として認識されるほどのちがいが生じていることが判明した.酵素多型のデータからは,すくなくとも7種(同胞種)を識別することができた. 2,酵素多型の調査から,ほとんどのケゼニゴケ2培体,3倍体は複数の遺伝子座においてheterozygosityを示した.このことから,ケゼニゴケ倍数体は異質倍数性であり,異なる1培体種間の交雑を契機として,非減数製胞子をつくるなどの経緯を通じて生じたことが示された. 3.日本・中国南西部,マレー半島,ボルネオ島北部の3箇所で新たに3倍体を確認したが,これらはそれぞれが独立に生じたことが判明した. 4.1倍体と倍数体が混在する集団においても,葉緑体DNAの結果からは,両者が異なるタイプに属することが判明した.また,1倍体と倍数体の間には,酵素多型の結果から,異なる対立遺伝子を有していることが分かった.このことから1,2,3倍体が混在する場合においても,2倍体は1倍体と3倍体の雑種ではないことが示唆される. これらの結果は,日本植物学会,国際植物学会議において発表を行い,現在論文としてまとめる作業を行っている.
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