P117プロセスト遺伝子は霊長類の一部に見いだされたレトロポゾンである。本来の機能している遺伝子の塩基配列決定を行った。ヒトとカニクイザルの本来の遺伝子とプロセスト遺伝子、およびDNAデーターベースのホモロジー検索で見いだしたマウスのcDNA配列との比較を行った。UPGMA法により系統樹を作成したところ、マウスと霊長類の分岐年代を約7000万年前とすると、ヒトとカニクイザルの本来の遺伝子の分岐年代は670万年前となり、2500万年前という考え方より非常に近くなってしまった。齧歯類の分子進化速度が速いための結果であろう。ヒトと旧世界ザルの分岐年代を2500万年前とするとカニクイザルのプロセスト遺伝子は約1300万年前に挿入されたことになる。これはマカカ属サルの放散が起きる以前のことと推定される。しかし、ニホンザルや、フィリピン産カニクイザルには挿入されていず、カニクイザルや、アカゲザルも出現頻度は地域により異なっていた。種を超えて染色体の同じ位置にレトロポゾンが挿入されることは考えがたく、したがって、マカカ属の中で挿入されていないものは何らかの機構、たとえばダイレクトリピートどうしでループを形成して抜け落ちたと考えることができた。 本来のP117遺伝子の存在が確認できたので、DNA配列から推定されたアミノ酸配列のうちヒトとカニクイザルで共通で、しかも親水性のアミノ酸を多く含むペプチド(25〜31番目)を化学合成した。そのペプチドとホモロジーを有するタンパク質は見いだされていない。ペプチドに対するポリクロナル抗体をウサギで作成した(サワディーテクノロジー社に依頼)。以前に行ったノーザンハイブリダイゼーションの結果から腎臓はP117の発現量が多かったのでアフリカミドリザルの骨臓由来細胞株COS-1に対して免疫組織化学的に存在部位を検討した。核に隣接した小胞体と思われる部位に強い発現が認められた。
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