ハ-バリウム標本による地域環境評価法の試作

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09839043
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 国立極地研究所
• 研究代表者: 神田 啓史 国立極地研究所, 北極圏環境研究センター, 教授 (70099935)
• 研究分担者: 伊村 智 国立極地研究所, 研究系, 助手 (90221788)
• キーワード: 南極 / 蘚苔類 / 群落 / 環境 / 断面構造 / 仮根帯 / 藍藻 / ハ-バリウム標本

研究概要

南極の蘚苔類群落は低い直立芝生型の生活型を持つ数種の蘚類で構成されている。雪鳥沢は昭和基地周辺から報告されている8種類のうち7種類が分布し、植生の豊かなところとして知られている。
本年度は1998年に南極雪鳥沢で採取し、蓄積されてきたハ-バリウム標本120点に基づき、蘚類群落の断面構造を解析し、類型化を試み、その生態学的意義について考察した。
調査方法:雪鳥沢に沿って分布している蘚類群落から乾燥処理されたハ-バリウム標本は5mm〜1cmの幅で、縦断面試料として保存されている。これらの試料に基づき、群落構造の類型化を図るために、構成種類、群落の最長深度、緑色部(表面)、褐色部(緑色部を持たないが群落の主要な部分を占める茎および葉の束)、砂土部(仮根、茎、葉の破片が砂に混在している部分、あるいは分解が進んだ腐食土)を観察し、測定した。また、構造の中に見られた仮根層、藍藻、不完全地衣類の付着状況についても調査した。
結果および考察:構成種類から純群落、二種混合群落、三種混合群落に分けられ、断面構造から平坦型、凹凸型に分けられた。さらに着生状態から藍藻型、地衣類型・蘇類型に分けられた。群落の厚さと緑色部、褐色部、砂土部が占める割合が示され、群落内に見られる仮根層との関連が考察された。すでに指摘されているように南極の蘚類群落の形成過程で蘚藻の及ぼす影響は無視できない。Ceratodon purpureusが平坦な純群落を形成する割合は他の種に比べて大きいが、群落表面に藍藻の膜ができると著しく生長が阻害され、それによって出来た窪地(凹部)の多くにBryum pseudotriquetrumの発達が見られた。結果的にCeratodonが凸部を、Bryumが凹部を占めて、凹凸型の群落が形成されたものと考えられる。同様に、B.argenteum、Grimmia lawiane、pottia heimiiの群落形成過程についても考察された。これらの結果はハ-バリウム標本に基づく群落構造の解析は地域の環境評価に有効であることが示された。

研究成果

• [文献書誌] 星野保, 神田啓史, 岡田元, 扇谷悟, 石崎紘三: "スバルバ-ル諸島にて採集したコケ群落上に増殖する糸状菌" 第20回極域生物シンポジウム講演要旨集. 65-65 (1997)
• [文献書誌] 南佳典, 沖津進, 神田啓史: "ロシア・北クリル地方における蘚苔類の分布について" 第20回極域生物シンポジウム講演要旨集. 67-67 (1997)
• [文献書誌] 神田啓史, 上野健, 伊村智: "南極雪鳥沢の蘚苔類群落の断面構造について" 第20回極域生物シンポジウム講演要旨集. 70-70 (1997)
• [文献書誌] 伊村智, 坂東忠司, 斎藤捷一, 瀬戸浩二, 神田啓史: "南極昭和基地周辺における湖沼底生蘚類の分布" 第20回極域生物シンポジウム講演要旨集. 69-69 (1997)
• [文献書誌] 鮎川恵理, 伊村智, 神田啓史: "南極雪鳥沢における土壌環境と植生分布" 第20回極域生物シンポジウム講演要旨集. 68-68 (1997)
• [文献書誌] 上野健, 神田啓史, 伊村智: "富士山頂部のコケ群落内で成長するハエについて" 第20回極域生物シンポジウム講演要旨集. 71-71 (1997)
• [文献書誌] Minami,Y., Okitsu,S.and Kanda,H.: "Relationship between plant community and topographic factor on the moraine at degraciated arctic terrain in Ny-Alesund,Svarbard." Bull.Fac.Agri.,Tamagawa Univ.37. 21-29 (1997)
• [文献書誌] Bekku,Y., Kume,A., Masuzawa,T., Kanda,H.and Koizumi,H.: "Microbial biomass in relation to primary seccession on arctic deglaciated moraines." Proc.NIPR Symp.Polar Biol.11(in press). (1998)
• [文献書誌] Koizumi,H., Bekku,Y., Kanda,H.and Masuzawa,T.: "Apreliminary study on CH4 emission on arctic deglaciated moraines." Proc.NIPR Symp.Polar Biol.11(in press). (1998)
• [文献書誌] Okitsu,S., Minami,Y.and Kanda,H.: "Relationship between plant occurrences and surface conditions on a recently deglaciated moraine at Ny-Alesund,Svalbard,Arctic Norway." Proc.NIPR Symp.Polar Biol.11(in press). (1998)